2019年8月28日(水),理工学部環境系にて「1日実験セミナー」がもたれました。『香里の雨やミネラルウォーターの水質を調べる』と題した講座で,講師をつとめてくださったのは,環境システム学科の横尾頼子先生,TAは安藤涼太さん(修士課程2回生)でした。
この講座はちょうど2年前,今は卒業した先輩方が受講させていただいたものとほぼ同じ内容で,安藤さんはこの年にも,唯一の学部4回生としてTAを務めてくださっていました。一方,今回の香里生参加者は,高校2年4名・1年3名で,非常に若い。しかも高校2年生は4名ともバスケットボール部,1年生は3名とも化学部という,おもしろい組み合わせで,そしてその7名全員が男子生徒と,なかなかめずらしい顔ぶれとなりました。高校1年の理科の授業を担当する教員が,バスケットボール部の顧問でもあり,授業なり部活なりでよく顔見知りの生徒に,猛烈な勧誘をしたのだとか。
横尾先生,実は1か月に1回,とある重要な任務のためにわれらの香里キャンパスに通われているのです。ほとんど知られてないと思いますが,清心館(保健室)屋上には,この研究室のみなさんが設置したボトルがあります。これで常時雨水を採取し,1ヶ月に1回の割合で,化学分析のために研究室へ持ち帰っているというわけです。
「化学分析」とは具体的にどんなことをするのか,また何を目的として行うのか,概論にさらっと触れただけで,いきなり「実習」からスタート。あとからわかるように,本当は先生がお話しになりたい講義の内容は1時間ぐらいあったのですが,冒頭からそんな長時間に及ぶ講義だと,高校生はもたないだろう,という横尾先生の配慮が感じとれます。でも決してそれだけではありません。化学分析に必要な操作,ノウハウを午前中の早い段階に確立させながら,こういった研究の独特な世界,空気感を肌で感じとってほしい,という意図があったようです。
実験室には,香里で採取された12カ月分の雨水をはじめ,ご当地ものの「ミネラルウォーター」がずらり並べられていました。午前中の「実習」とは,これから化学分析にかけようとする試料水をろ過して,不純物(空気中のダストなど固体成分)を取りのぞいていく作業。そして,機械にpH基準値を憶えこませる(認識させる)操作。準備作業にあたる部分です。これだけでも,実は一つ一つがかなり面倒な手順を踏まねばならず,作業量は決して少なくありません。なぜなら,雨水などに含まれる,超微量な成分などを相手にする以上,他の液体が目的の試料に入りこんでしまうことはご法度。そのリスクをとことんまで排除するために,器具の「二度洗い」「三度洗い」が当たり前なのです。「まるで製造業の,品質管理の世界やなぁー」という声がもれるのももっとも。
気がつくと口数が少なくなり,集中力を研ぎ澄ましている生徒たち。本当に真剣です。感心なことに,わずらわしがったり,嫌がる生徒は誰ひとりいません。この地味な作業を何度もやっていくうちに,手つき・顔つきまで,まるで職人のようになっていきます。「ここにいる安藤君も,学部4回生の1年間かけて,研究に耐えうる技能を習得したんだよ」と横尾先生。
作業がてら,研究室の分析器,および分析器を作動させている現場まで見学させてもらいました。生徒たちの精製したサンプルは,作製時に同じものを3分割したのですが,そのうちの1つは午前中にも,この分析器にかけられ,どんな種類のイオンが含まれているのかを割りだすところまではできました。
プログラムは大変順調に進み,昼休憩をはさんで,午後のはじめの1時間は,いよいよ本実験。7人で協力・分担して,午前中に精製した香里12か月分の雨水の,pHとEC(電気伝導度。水中に電解質がどれぐらい含まれているかの目安になる)を順に測定していきます。午前中に習得した技能の見せどころです。
約1時間かけてデータが出そろいましたので,講義室へもどって,さっそくデータの打ちこみ。でも,このデータが意味するもの,何を読みとるかを理解するには,どうしても化学の基礎的な知識を学ぶ必要があります。そこで,濃度とは何か,pHとは何か,土台となる基礎数学を含めた講義をみっちり1時間。午後,しかも大仕事をやりきった生徒たちは,疲労のためかうつらうつら…としてしまう人も。後半では,日本各地の名水といわれるミネラルウォーターはどうやってできるか,日本の地質と水(雨水)の相互作用などについても熱く講義され,われわれの視野を広げてくださいました。「今日トピックにした内容のうち,その1つ1つのこまかい分野を専門分野として研究されている方もおられます。でも私は,水に関係することなら〈何でもあり〉で,水を求めて世界各地へ飛んでいきます」
講義のあと,再び実験室へ移動。そこに並べられていたのは,今度は岩石標本でした。そして,午前中に分析に使ったミネラルウォーター。「岩石をじっくり鑑賞しながら,みんなで〈利き水〉をやってみましょう」 6種類のミネラルウォーターの飲み比べを行い,水がどこの水かをあてっこするというわけです。だいたいの見当をつけられる人,「俺には〈Evian〉以外どれも同じに感じるよ~」という人までさまざま。でも,1日の疲れを忘れたのかというぐらい,みんな夢中になっていました。とりわけ高校2年は,引率教員の1人が,彼らが中1のころに「理科2分野」を担当しており,「岩石」の実物に触れさせながら熱心に教えこんだ学年です。「あ,これ懐かしいー!」「順に,〈○○岩〉,〈××岩〉だよね。今でもどれがどれか言える!」などと,岩石標本に群がっていたのも印象的でした。
1日を通し,いろんな体験をさせてもらいました。大人数を相手に,要点だけをかいつまんで多数の学部学科の紹介をうける「学部説明会」とは異なり,実体験により大学での研究生活の雰囲気まで感じとることができたのは,生徒たちにも非常によかったようです。また,TAの安藤さんがバスケットボール部であったことは,生徒たちが先輩を身近に感じるきっかけとなり,就職活動や大学生活のお話を聞かせてもらえたりもしたようです。
(参加者の感想より)
◇普段,きれいに見えている水の中にも,H2Oだけではなくて,いろいろなものが含まれていることが分かってよかった。
◇なぜこういう手順で実験を進めるのかは理解できたのだが,専門的な用語が出てくるとわからなくなった。講義時間が少し長い気がした。
◇講義でたくさんの知識を得られた上,実験を通して体で体感できて,とてもよい経験になった。
◇講義のときの説明が少し難しかった。実験は楽しかった。
◇「利き水」が楽しかった。
◇思わぬ形で参加することになったのですが,とても楽しくて,来てよかったと思いました。
◇実験を通して,普段は話の上でしか学べていなかったことを学べてよかったです。