9月11日(木)、本校紫塩館化学講義室において、同志社大学生命医科学部・医工学科から小泉範子先生をお迎えし、「再生医療で光を取り戻す ~角膜再生医療の最先端~」と題する最先端科学入門講座が行われました。生徒28名と教員3名が聴講しました。先生は、京都府立医科大学をご卒業の後、眼科専門医のお立場から、角膜の再生医療にかかわる研究の第一線でご活躍されております。
講義は、再生医療におけるキーワード「幹細胞」についてのお話しから始まりました。幹細胞とは分裂して自分と同じ細胞を作る能力と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞のことです。体の臓器・組織には様々な種類の幹細胞が臓器・組織ごとに存在しています。近年、マスコミ等で取り上げられることの多い、多機能性(いろいろな臓器・組織の細胞に分化する能力を持つ)幹細胞であるES細胞やIPS細胞についても、わかりやすくお話いただきました。
次に、ご専門である角膜再生医療について。先生のご研究の1つは、ステムセル疲弊症の新しい治療法の確立です。ステムセルとは角膜上皮にある幹細胞のことですが、Stevens-Johnson症候群の後遺症や、化学実験・工場でのアルカリ薬品が目入ることによってこの幹細胞が機能しなくなり起こる症状がステムセル疲弊症です。新たな角膜上皮細胞がつくられなくなるため、角膜のまわりの白目が角膜組織を覆い、目が見えなくなるそうです。先生のご研究は、この角膜の幹細胞を羊膜(帝王切開で取り出された胎盤を提供)シート上で増殖させ、角膜上にのせ、角膜を再生させるというものです。すでに治療法としても確立されて視力の回復事例があるとのことでした。
続いて、角膜が濁って視力が低下する「水泡性角膜症」の治療法研究について。この研究は、培養で増殖させた角膜内皮細胞を患者さんに移植するというもので、今年の3月12日に新聞各紙が「世界初」と報じた「最先端」の治療法です。角膜内皮細胞は、もともと増えない細胞ですが、先生の研究グループはこの角膜内皮細胞を「ROCK阻害剤」とよばれる薬剤などを使って培養し、増殖させることに成功しました。
「私たちは、日々、様々な実験・研究を行っているが、そんな日々の取り組みの中で、あるとき突然の「出会い」というものがある。私にとっては「ROCK阻害剤」との「出会い」は大きかった」「日々の継続的な研究があるからこそ「出会い」がある」との先生のお言葉がとても印象的でした。
この角膜内皮細胞の増殖については、先生の研究室の大学生・院生が研究を継続し、3年ほどかけて2人のドナーから500人分の増殖を可能にしたとのことです。
講義の初めに、角膜移植手術の映像を皆で見ました。白内障によってレンズが濁っている患者さんの角膜を切りとり、眼内レンズを入れ、ドナーの角膜を移植するという大がかりなものでした。これらの手術が与える患者さんの精神的・肉体的な苦痛は相当なものだと想像できます。また、角膜の提供者がいなければ手術自体が行えない。これが従来の治療法でした。
新しい治療法の確立により、注射器で細胞を眼内に注入するという簡易な手段により、患者さんの負担は大きく軽減され、また、ドナーを待つこともなくなります。
先生は臨床にもかかわっておられ、術後のお話しもされました。注入した細胞を定着させるために、患者さんは3時間ほど眼球を下に向け続けなければならないそうです。顔の大きさの穴の開いたベッドを用意し、うつ伏に寝て、その下で好きなDVDを見ながら過ごすなどの工夫なども検討中だそうです。研究と臨床の双方にかかわる先生の研究領域ならではのお話でした。
最後に、同志社大学生命医科学部について。過去に確立されてきた臨床医学、基礎医学という専門領域はありますが、それらの発展には工学・理学の研究が欠かせません。しかし、これまでの日本においては、入学する学部によって医学部、工学部、理学部などに分かれ、その横の繋がりもあまりない状態でした。生命医科学部は、医学部と工学部の横の繋がりを生かし、どちらの専門的知識ももった人の育成を図っているとのことでした。(医工学科の教員は、現在、医学系3割と機械工学系7割とのことでした。)「この分野の面白いところは、研究の成果がすぐに臨床で生かされ、人の役立にたてるところです」とその魅力もお話しいただけました。
先生は2年間、ドイツに留学されています。医学の研究は日本にいても十分に行う環境はありますが、留学で得られた人間関係、様々な経験、海外から日本を見るという経験は、どんな経験にも代え難いと、強く留学を勧められました。
生徒たちにとっては普段経験できない長時間(90分)講座でしたが、先生の語り口、最先端の内容をまさにわかりやすくお話しいただき、あっという間に時間が過ぎました。進路を考える上でも実り多い時間となりました。
◆生徒による代表的な感想
・この学部に行きたいと思いました。難しい内容ですが実験をして成功したときの事を思い浮かべるとわくわくします。
・角膜である黒目は透明だと言うことに驚いた。
・今の医療の状況を知ることができました。
・目の治療のことについて色々知れた。生命医科学部についてもっと知りたくなった。
・とても詳しく、簡単な言葉で説明してくださったのでとてもわかりやすく、興味をもつことができました。ありがとうございました。
・目の治療など、少し気持ちが悪い場面もあったけど、なかなか見れない映像でよかったです。
・留学したいです。
・大学や大学院で行なわれている研究が実際に病院で役立っていることが実感できた。
・ニュースでよく見る再生医療がここまで進んでいたとは思っていなかった。とても勉強になった。
・1時間半あると聞いていたけど、すぐに時間が経ちました。たのしかったです。
・生命医科学部がどういう研究をしているところかということがよくわかった。
・目に関してたくさんの病気があることを知り、その病気を治すためにいろいろな研究を大学でしていることがわかり、感動しました。
・目の手術を初めて見て、こんな風に手術をするんだなあと思い、興味を持ちました。
・実際に手術の映像を見ることができたので、説明のみではなく、わかりやすかったです。
・目の手術の映像が見れて貴重な体験ができました。
・一度、オープンキャンパスのときにここの研究室を見たことがあったので、話しがとても理解できました。
・同志社大学が世界初の研究をしたことにすごいと思った。この講座に参加できてよかったです。
・先生の研究室はとても明るそうで楽しそうでした。もっと、技術が進んで、たくさんの人の目がよくなればいいなと思いました。