8月25日(火)、同志社大学理工学部にて実験セミナーが行なわれ、本校生徒10名が参加しました。今回のセミナーは、「世界に誇る日本の『カーボン繊維』を使った,複合材料のリサイクルの体験」と題し、理工学部機械システム学科の藤井透先生にご担当いただき、また、TAとして糸川幸輝さん(M1),若山峻哉さん(B4),山内邑咲さん(B2),宇高希さん(B2)にご協力いただきました。
以下、報告します。
セミナーは,「カーボン繊維」とは何かを知る講義から始まった。この素材についてなんとなく耳にしたことぐらいはあっても,どんなものなのかを知っている生徒は皆無だからだ。いきなり先生がハンマーを振り上げたかと思うと,机上の何やらかたそうな塊に向かって振り下ろされ,その音に一同度肝を抜かれた。この素材は,たとえば航空機「ボーイング787」の廃品がその好例で,とにかく硬い。また,繊維状に細長くして引っぱりを加えても,切れる気配がない。「これこそがカーボン繊維です」
カーボン繊維がいかに「すごい」かを理論面から説いていかれた。簡単モデル化すると,高校物理の知識と基礎概念だけで十分イメージできるのだ。先生にあてられるのではないかとキョロキョロする生徒たち,このようすでは少し心もとないが,こういう振りをきっかけにこそ,今の学習に意味を見出すのもよいだろう。「硬い,強い」イメージの代表的な素材といえば「鉄」であるが,簡単にいえば,その鉄よりもずっと密度が小さく,なおかつ引張に耐える強度が高い。これを「比強度」という概念を与えて説明する。生徒たちも実際に「カーボン繊維」のサンプルを手でさわって感じてみることで,納得したようすであった。
「でも,あなたがたの今目前にも,比強度がすばらしく高い材料があるのですよ。何だと思う?」と問いかける先生。首をかしげるばかりで,なかなか積極的に答えを口にしようとしない生徒たちに向かって,「こういう問いこそ,一生懸命考えてほしいな。まちがえても,他人に先んじて行動する子は,将来性があるよ」と先生が鼓舞される。この答は「木材」であった。飛行機の材料にも一部使われているという。
ここまでだと,カーボン繊維はいいことづくめであるように聞こえる。だが理工学は,ものの物性だけを研究していればよいわけではない。この素材の生産性を考えたとき,大変「歩留り率が高い」のだ。電気エネルギーの使用量が膨大であり,この発電を仮に化石燃料で行うと考えれば,CO2として排出される。よって,「リサイクルして繰り返し用いる」ことが絶対必要条件となる。ここから「リサイクル」のプロセスを模擬体験しつつ,「カーボン繊維」のいろいろな側面を体験的に学ぶ,実習プログラムが用意されていた。
TAさんの1人が,研究室をすぐ出たところにある炉にて,目の前で「プラスチック(合成樹脂)とカーボンの複合材料」を焼く現場を見せてくださった。こうすれば樹脂成分だけを溶かし,再びカーボンを取り出すことができる。炉の中は火が燃えさかり,手慣れた学生さんでも思わず「あつい!」と声がもれ,生徒たちもかたずをのんで見守った。そのうちてっぺんから出る煙が黒くなり,においもすすっぽくなってきた。今しがた,「カーボンどうしの結合は硬いので,高温で酸素と触れさせても,そう簡単には燃えない」と説明を受けたばかりの生徒たち,不思議そうな表情をした。どうやら,それは「程度の問題」であり,いくぶんはカーボンどうしの結合が切れ,酸素原子が混ざりこむのだそうだ。したがって,焼いたあとのカーボン繊維は,もとよりも若干強度が落ちる。「落ちるといっても,やはり“強い”のです。これをどう使い物にしていくかに,研究のテーマを求めていくわけです」こうやってできた産物を,みな我先にと手にとってさわっていた。
そして,焼いてできた繊維と,もとの繊維を,1本1本の糸に分解し,皆で手分けしてその引っぱり強度を測定してみる実習を行った。1本の太さは10µm,なんと髪の毛のさらに10分の1の世界。でも,確実に1本1本にばらして,機械に通せるサンプルをつくらないと,実験の意味がない。生徒たちは「これ,ほんとに1本かな,だぶってないかなー…」「ボンドで固定するのが難しい…イライラする~~」と苦戦しつつも,互いに競争しながら,まるで研究室の一員になったかのように,強度測定の実験を楽しんだ。TAさんから「データを数百はとらないと,物性測定としては有意じゃない。この単調作業を,2~3時間延々とやることもあるんだよ」と聞かされた生徒たちは,さすがに「それだけは勘弁!」という反応であった。
午後からは,カーボン素材の内側を原子の目で見てみよう,ということで,電子顕微鏡をのぞかせていただいた。また,よく見知っているプラスチック樹脂にカーボン繊維を混ぜていったん融かし,成形する操作も見学させていただけた。
さらには,伝統的な製紙工場で行われる「紙すき」さながら,「カーボン繊維を“のり”でとかして集め,1枚のカーボン紙?を各自制作する」作業もさせていただいた。これもなかなか根気と熟練が要る作業である。ここでも先生からの問いかけが絶えない。「さて,カーボン紙を作ったものの,何の用途に使うのでしょう…?」
そして最後は,もっと本格的な機械を用いて,通常のプラスチック繊維素材と,それにカーボンが何割か配合された素材の強度試験を体験させていただいた。10トンにもおよぶ大きな力で引張された後,目に見えて材料は伸びている。こんなかたい素材が「伸びる」ことに生徒たちは驚いていた。また,「折れる」瞬間には大きな音が出,その迫力に見入っていた。
1人1人やらせていただける実習に,目の前で見せていただけるリアルタイムの実験にと,とても盛りだくさんの1日であった。実は,今日のスケジュールは,糸川さんの普段の研究スケジュールそのものを疑似体験できるように組まれたという。体力と集中力を持続させるには,なかなかハードであったが,その1つ1つを通して繰り返しくり返し,先生がこれから未来の科学技術界を担う若者たちに伝えたかったメッセージは一貫していた。それは,「機械工学」という古くからある,伝統的な学問分野が切り込んでいく可能性についてだ。「機械」というと,歯車だとか部品だとか,それらの組み合わせ方とかをどうしてもイメージしてしまう。言葉からうける印象は,生徒たちの進路選択にも大きな影響を与えがちである。後の感想からもとらえらえるように,「機械系」の実験セミナーで,まるで化学の学習のように,これだけ物質とつきあうのは,生徒たちにとって意外性が高かったようだ。だが,物質のすぐれた点と弱点を研究ではっきりとさせ,それらをどう活用するシステムをつくっていくのか,にも目を向けてほしい。そういうこと自体が大切な研究課題である,ということ。研究のもつ社会性。
疲労のため眠気に襲われていた生徒たちも,この力強い先生のメッセージには,全員が真剣なまなざしで聞き入っていた。
◆生徒の感想(アンケートより)
・知らないこともたくさんあり,これから使われていくと思われるカーボン繊維に,ふつうなら関わらなかったと思うのですが,今日1日を通してたくさん学べたので,これから気にしてニュースなどを見ていきたいです。
・カーボン繊維の持つ性質や可能性について知ることができて,とてもよかった。
・カーボン繊維を使った複合材料のリサイクルについて,教授や学生のみなさんがわかりやすく説明してくれたので,よく理解できました。
・カーボン繊維のよいところ・悪いところを説明していただき,新しい技術にたよりすぎてはいけないということが,よくわかりました。これから参考にします!
・あまり興味があったわけではないのですが,知らないことを知ることができて,とても楽しかったです。
・今まで知っていたものの実験や,初めて見るものの実験など,とても興味がわいた。
・現在最先端を行く技術のことを知ることができ,楽しく参加することができた。今回は,多くある中の1つの研究だったが,とても興味を持つことができたので,他の研究も気になる。
・機械系の学部はどんなことをするのか知れてよかった。普段気にしていないカーボンに興味が持てた。
・すごくためになりました。進路を決める参考になりました。来てよかったです。
・カーボンは,今では日本の3分の2の生産を占め,日本や海外のいろいろなところに作られているのがわかった。カーボンを製品に入れることによって,こんなに強度が上がることにとても興味をもった。また,リサイクルもできることが分かったので,すごい性能だなと思った。