9月17日(木)、最先端科学入門講座(理工学部)が本校で行なわれ、高校生47名が参加しました。「光をあやつる電子工学~いま,必要とされている課題を中心に~」と題して同志社大学理工学部電気電子工学科・光デバイス研究室の大谷直毅先生にご講演いただきました。
以下、報告です。
参加者の主力が高校2年であったことを配慮し,理工学部全体の成り立ちや,電気系ではどんな勉強・研究ができるのか,また電気と電子のコースのちがいについてから,話を始められた。「理工学部は今年から新しい教育の試みを始めたんです。海外研修プログラムが受けられます」「物理が得意な人は機械へ行った方がよいかもね」 彼らにとって将来待っているであろう大学生活の現実的な姿について,先生が舞台裏まではばかりなくあけっぴろにしつつ,フランクに話される口調に,生徒たちからはクスクス笑いがもれるほどで,徐々に独特の世界にひきこまれていた。
学生実験のカリキュラムが非常に充実していて,オシロスコープが1人1台の割合で配備されていることはしっかりアピールされた。「1回生の秋学期から,こうした恩恵にあずかれます」
そして,電気系では,しっかりとした基礎学力をつけるチャンスに恵まれていること。学生実験をやりとげた学生たちは,就職して社会に出たとき,「学力面でも,実験能力にもたけている」ということで,昨今企業からの評価も高いということであった。「研究室合宿では,学生全員に英語でプレゼンさせるというあらわざをやりましたが,なかなかのものでした」「先日は,学生をイタリアまで連れて行きました。みんなもがんばりましょう!」とまで言われると,顔をこわばらせる生徒もいる。
先生の研究の主軸は「光」だ。光を利用するものには何があるか。実はとてもわたしたちに身近であり,ほとんどの高校生が日々使っていると思われる,インターネットによる情報伝達にも,「光」が使われている。地球上,人がたくさん住んでいるエリアがどこなのかは,宇宙からの衛星写真にも「照明」としてはっきり現れている。人類の消費エネルギーの1/5は「照明」であり,エネルギー問題・環境問題の観点からも,これをいかに減らすかが課題だという。
ここからはやや専門的な話題となった。「光の色」と「ものの色」はちがう。絵の具では緑,赤,青の「三原色」をまぜあわせると,黒に近づいていくが,同じ「三原色」の光を重ね合わせると,白色になる。よって,白色光はすべての色の光を含んでいることになる。「青色+黄色=白色」であり,互いが補色の関係にあることを示された。「これが技術として応用可能なのは,去年青色LEDでノーベル賞を受賞された,中村修二さんの研究に負うところが多いのです」
余談になるが,先生はノーベル賞を受賞された3人のうち,2人まではふつうに面識があり,会食などのご経験もあるのだとか。以前からの知り合いであるように,ごく平然とした表情でノーベル賞学者との親交を語られたことに,驚いた生徒もいたようだ。
LED照明をいかにして改良していくか。それはいろいろな社会的ニーズに応えるためでもある。スーパーに売られているトマトの写真,同じもののはずなのにLED照明のもとではくすんだ色に見え,おいしそうではないことがはっきりと見てとれる。ある物体を照らす照明が,基準光と比べてどれだけ色を忠実に反映できるかの指標(「色再現性」と呼ぶ)が,評価基準として確立されることが重要。
課題も多い反面,そもそもLEDの発明のすばらしさは何にあるのか。とくに「青い光」のメリットとして,青い光で黄色の色素を発光させる役割を兼ねることはできるが,その逆は不可能ということがある。青い光は波長が短く,エネルギー的により高エネルギーだからだ。このような結果も,物理学の基礎をきちんと学習することで,およそのことがイメージできるようになるのだ,と。現在進行形で「物理」の基礎を学習している高校生たちには,やや耳の痛い話だったようである。空気を察知して,先生が皆にメッセージをはさまれた。「勉強をするとき,暗記や計算が得意という人もいるでしょう。でも,今示したような画像から,ぱっと見で“特徴を抽出する能力”なんてのも大事な1つです」
最後に,先生が今取り組んでおられる研究・有機ELについてアウトラインを紹介された。今までの有機サンプルの欠点は,劣化があまりに早いこと。酸化・湿気に弱い。そこで,植物から取り出した色素を素子にまぜるということを試みている。生物の身体には自己免疫機能・抗酸化作用がある。それを利用し,生物のしくみから学びたい,とも。「僕自身は,学生時代以来,ずっと電子のことが専門で来ました。太陽電池の開発に,まさか植物の研究をすることになるなど,予想だにしていなかった」
「同志社大学からNatureに論文を掲載できたのはうちだけです。ちょっと自慢だね。2回・3回目も狙いたい。ぜひうちに来てください」
ご自身の自己紹介を,終わりかけというこのタイミングではさまれたのも,斬新であった。「実は国家公務員上がりです。民間の研究室から総務省の研究所へ,それから今の職場に来ました。今でも,プロの写真家になりたいなという第二の夢をもっています」「電気は就職口が広いが,建築方面への需要もかなりあります。幅広い人たちに来てもらいたいと思っています」
研究というもののもつ社会的な性格,基礎学力の重要性,どこでどんな学問どうしがつながるかわからないスリル…多面的に豊富な話を展開された先生に,生徒たちからは拍手が送られた。
◆生徒の感想(アンケートより)
〔最も印象に残ったこと〕
・電気と電子での学ぶ内容が異なるところ。
・光の波長の図がとてもわかりやすかった。
・ホウレン草の色素が赤く光るということにびっくりしました。
・キャベツは緑の光を吸収しないこと。
・青色の光に黄色のカバーをつけると,白い光になるのはとても驚いた。
・大学で講義がたくさんある中で,英語での発表があること。
・数学が大事ということ。
・LEDが思ったより高価だったので驚いた。
・電子と植物につながりがあること。
・光学の知識を社会においてどう活かせるか,ということを具体的に示してくださったこと。
・LEDの分野において,発展の歴史にとても興味を持ちました。
・就職先が広いということ。自動車の会社にも入れるということ。
・コンピュータやケータイは機械ではなく電子の研究対象であること。
・野菜の色素を使って,LEDなどを作ることで,今までデメリットになっていた価格がおさえられること。
・色素で発電するということ。
・1つのことを研究する過程で,分野の大きく異なる研究や実験をまじえることも,めずらしくないということ。
・制御系がおもしろそうだと思った。
・有機ELが酸化に弱いのを,植物の抗酸化作用で防ごうとする発想がすごい。
・補色の青と黄以外の色の名前。
・植物の吸収する光が,色によって強度がちがうと知らなかったので,印象に残った。
・太陽光パネルを作る上で,植物のしくみが応用されているという点。
・蛍光灯の寿命が意外と短くて,LEDの性能が案外良かったことに驚いた。
・電気工学に「色」が関係あるということ。
・今まで波という分野に縁遠いと感じていたが,そうではなかったこと。
・物理のうち苦手な力学をあまりやらずに,数学,波,電気をやるということに魅力を感じた。
・全体的な内容も紹介されていて,また詳しいことも教えていただいて,とても理解できました。
・光をすべてまぜると白になること,2色混ぜたとき白色の光になること。
・建築士になるためには,電気の知識も必要だということ。
〔全体の感想〕
・話の内容は難しいと感じましたが,理工学部で学んでいることなど,今まで知らなかったことを知ることができ,自分の進路を決める参考になりました。ありがとうございました。
・私生活で聞かないような専門用語ばかりでしたが,なんとなくやっている実験などには興味が出ました。
・電気電子工学科は幅広い分野であり,これから成長する分野だと理解しました。このような講座の機会をもっと増やしていただければと思います。
・理工学部で新しくできた語学研修に行ってみたい。
・今までぼんやりとしか理工学というものをとらえていなかったが,今回の講座で電気・電子に重点をおき,今の社会においては外せないインフラの一部に組み込まれているのだな,と感じることができた。
・コードがついてないマイクも電子なのかな…と疑問に思いました。
・光や電気は人間にとって必要なもので,これから先もずっと必要になるものだと思うので,先生の目標となる産業廃棄物の出ないシステムができれば,とても役立つと思う。頑張ってください。
・若干わかりにくい部分もあったが,全体的にかみくだいて分かりやすいように話していただいたので,とてもよかったです。
・勉強を頑張って,理工学部を選ぼうかなと思った。
・難しく思える研究が,実はとても身近に使われている技術に応用されていることを実感できて,とてもおもしろかった。
・とても参考になった。数学が苦手だが,克服して入れる学部学科を増やそうと思った。
・車や重工業関係の会社に興味をもっていて,そこにも就職できることがわかり,選択肢が増えてよかった。
・電気工学と電子工学のちがいが理解でき,また光の使われ方について,とても勉強になりました。
・今までうけた大学の講義では,基礎的な部分ばかりを教わり,いまいち学部において何を目指して学ぶのか不明確な部分が多かったのですが,今回の講座で,世界や社会の現状についての,しっかりした根拠から導かれる,独創的な思想にわずかでも触れる機会となり,大変興味深いものでした。進路の参考にさせてもらいます。
・あまり理解できなかったのですが,学部の内容を知れてよかったです。
・光についての説明が多くて,あまり知らない言葉も多くてわからないことが多かったけど,くわしく説明してくださったので,興味がもてました。
・この20年でLEDの技術がここまで進歩できていたことに驚いた。