9月15日(土)本校紫塩館化学講義室において同志社女子大学薬学部「最先端科学入門講座」が行われ、「がんの薬物治療と薬剤師の役割」と題して同志社女子大学薬学部教授の中西弘和先生にご講演いただきました。中西先生は厚生労働省が認定している「がん専門薬剤師」の資格をお持ちで、以前は京都桂病院薬局長としてがん医療の最前線でご活躍された先生です。医療現場における薬剤師の役割について貴重なお話しをいただきました。
はじめに、この10数年で薬剤師の仕事が大きく変わってきていることを紹介されました。以前は調剤のみで薬の量を量ったり、水薬を混ぜたりということが主な薬剤師の仕事でした。しかし、現在ではそれらの仕事の多くは機械化が進み、薬剤師は最終チェックのみの薬局も少なくなく、アメリカではライセンスなしの人が行なっているケースもあるそうです。
最近の薬剤師の仕事は、薬を納得して飲んでもらうこと、薬を間違うことなく飲んでもらうこと、副作用や飲み合わせのチェックをするなど患者さんと話すこと(服薬指導)が大切な仕事の一つとなっているそうです。また、最近では医師に対して処方提案ができるようになり、医療現場での薬剤師の役割は益々重要になってきているとのことでした。
次にがんについてお話がありました。がんは日本人の死因のうち3人に1人の割合で、最近の特徴として大腸がんの増加を挙げられていました。食事の欧米化が原因ではないかとのことでした。
がん治療には手術療法、放射線療法、抗がん剤療法があり、放射線療法や、抗がん剤治療として使う細胞毒性薬は、がん細胞だけではなく普通の細胞にも作用してしまうため激しい副作用を伴うとのことでした。抗がん剤療法には他に大変効果が優れている分子標的薬治療があるが薬価がとても高いとのことでした。
次に乳がんについてのお話しがありました。早期発見が重要で、日頃から入浴時などに触診することが大切とのことでした。術前化学療法でがん細胞を小さくすることにより乳房切除をせずに対応もできるとのことでした。また実際の乳がんの抗がん剤治療薬シクロホスファミドの紹介があり、副作用として出血性膀胱炎になるとのことでした。シクロホスファミドは体内で分解されがん細胞の増殖をできなくさせる分子が生成されるのですが、一方で膀胱炎の原因となる分子もつくられ、副作用として膀胱炎になるとのことでした。この膀胱炎によって尿が赤くなったらメナスという薬を使用するそうです。
薬剤師は、がん細胞に対し薬の効果がどれくらいあるのか常に評価し、薬の量、種類を調整しています。薬の効果が大きいと判断したとき、小さいと判断したときの対処方は薬の量の調整や種類を変えるなどするが、薬の効果が安定しているときの対処法は、とても難しいとのことでした。
次に抗がん剤治療による副作用についてお話しがありました。医療人として「緩和ケア」という言葉は知っておく必要があるとのことでした。世界保健機関(WHO)の定義では「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に起因した諸問題に直面している患者や家族のQOLを改善する方策で、痛み、その他の身体的、心理的、スピリチュアルな諸問題の早期かつ確実な診断、早期治療によって苦しみを予防し、苦しみから解放することを目標とする」とあります。がん患者の苦痛の緩和として適切な鎮痛薬・鎮痛補助薬の使用により80%~90%は徐痛可能とのことでした。医師はなかなか薬の副作用のことまで治療の過程で考慮できないそうで、その仕事は薬剤師が担っているとのことでした。それぞれの薬は種類によって、薬の効果が半分になる時間、最も効果のでる時間を決まっています。薬効が同じでも単純に処方すればよいわけではないそうです。例えば効き目は持続するが、すぐに効かない薬を、すぐに効かせたい患者さんに処方してしまうケースも薬に関する十分な知識がなければ、起こりうるとのことでした。薬の専門家は薬剤師であり、今後益々その役割は大きくなるとのことでした。
最後に先生の研究室の学生さんのお写真をスライドで拝見しながら、同志社女子大学薬学部の様子もご紹介いただき、この講座を終えました。
[生徒の感想]
①最も印象に残ったことは何ですか。
・薬剤師の仕事が昔と違って色々な仕事を任されていることに驚いた。分子標的薬というものの画期的さが強く印象に残った。
・乳がんが転移して広がっていくというのはとても怖いなと思いました。それを取り除ける薬を出すことも仕事の一つなんだと思いました。
・薬剤師の仕事がたくさんあって、薬剤師にしかできないこともあるということがわかったこと。
・様々な医療現場で活躍していることがとても驚きました。これからももっと活躍の場があると思うので、もっといろいろ知りたいです。
・薬学部のみんなが国家試験に合格したこと。
・薬剤師の仕事の変化について
②講座全体の感想
・進路に薬学部を考えていたので、今回の講座に参加できてよかったです。より薬剤師になりたい気持ちは大きくなりました。
・人の役に立てる仕事だなと思いました。また、がんはこわい病気だなと思いました。薬剤師の仕事は変わってきているんだなと思いました。
・自分の想像よりも薬剤師の役割がたくさんあることを知れてよかった。
・私が知っていた薬剤師のイメージと今回のお話しを聴いた後のイメージが全然違ったのでとても驚きました。
・とても入りたくなりました。でも責任感が重そう。
・進路を決めるのに参考になりました。