「ナノサイズに広がる新しい可能性」
参加者 26名
9月14日(土)本校紫塩館化学講義室において最先端科学入門講座(同志社大学化学系)が行われ、「ナノサイズに広がる新しい可能性」と題して同志社大学理工学部教授の白川善幸先生にご講演いただきました。
以下、ご講演の概要を報告します。
・化学システム創成工学科について
化学系には、機能分子・生命科学科(以下、機能分子)と化学システム創成工学科(以下、化学システム)の2学科があり、そのうち機能分子は、新しい物質をつくる研究が中心であり、一方の化学システムは物質を作り出すプロセスを研究する学科です。研究室で新しい物質がつくられたとしても、すぐに実用化・商品化はできません。試験管の中で反応が起こせても実際の工業用の大きな反応釜で、つまり装置を大きくするだけで同じ反応が起こせるというものではありません。新たなシステムの構築が必要になります。生産する上では、コストについても考える必要があります。さらに反応プロセスで生じる副産物など、環境に与える影響についても考える必要があります。過去には化学工場からの排気ガス、排水から様々な公害問題が起こったこともありますし、また「夢のガス」と言われたがフロムガスも有害な紫外線を遮断していたオゾンを破壊していることが後になってわかり使用が制限されています。化学者は、10年、20年先も見なければなりません。
卵料理でも焼くとゆでるでは食感が変わります。つまり素材・材料が同じでも料理法が変わると別のものになります。化学システムでは、料理に例えると調理法について研究します。それらを研究する上では、化学の知識だけではなく+αとして物理・数学の知識も必要になってきます。
・粉体・微粒子を扱った商品について
固体の大きな塊を微粒子にすることにより、流動性が生じ扱いやすくなり、また新たな性質が生まれます。そして、それらの特徴を利用した商品は身の回りにたくさんあります。例えば化粧品で言えばファンデーションなどは、微粒子が皮膚の凹凸に入り込んでしわやシミを消してくれます。UVケア商品は肌の表面に留まり、有害な紫外線から肌を守ってくれます。肌の構造は若い人であれば、常に新しく再生され平均28日で新しい肌に変わります。紫外線は、肌を構成するコラーゲン、エラスチンが切れしわやシミをつくる原因になっています。商品開発には、化学的な知識だけではなく、肌の構造、紫外線の影響等についても知っておく必要があります。また、それらの化粧品を使用する人のニーズも知る必要があります。例えば「朝つけた化粧がきれいな状態で一日ついていてほしい。でも家に帰ったら簡単に水で洗い落したい」、一見矛盾するようなこのような声から、新しい商品の研究が始まり、そのニーズを満たす商品が生み出されます。紫外線は通さないけど可視光線は通す。つまり白くならない透明なUVケア商品が開発されたのも消費者のニーズに答えた商品開発・研究のたまものといえます。
・ナノサイズの粒子について
微粒子を知る上で知っておいてほしいことは、ある物のスケールを大きくしたい、あるいは小さくしたい場合、そのまま部品のサイズを大きくしたり小さくしたりすればいいというものではないということです。例えば「ウルトラマン」を人間の大きさまで縮小すると、その筋力を維持するために人間の体重は140kgになるという計算もあります。人間にとって水はさらさらとしてなめらかなものですが、蟻にとっては12万倍の粘性があるという計算になります。現存する機械のスケールを小さくすると油や素材なども見直す必要があるのです。一桁スケールを変えると何もかも新しくしなければならないということはナノサイズを研究する上で大切です。
ある粒の塊がある場合、その塊の内部の粒子はまわりの粒子と結合し安定状態にありますが、表面にある粒子は他の粒子と結合していない面があるため化学的に活性の状態になっています。大きな塊であれば表面の粒子より内部の粒子の割合が大きいため、その塊の性質は内部の粒子の性質に大きく依存します。一方、粒子を細かくすると、表面の活性な粒子の割合が多くなります。そして、より小さくして内部の粒子と表面の粒子の割合が同じくらいの塊(ナノサイズ)になると、今までの塊にはない、全く別の性質を示すようになります。これらの新しい性質を利用した技術や商品が様々な形で研究・開発されています。
ナノサイズの研究をすすめる上では、その危険性(ナノリスク)についても熟知する必要があります。5ミクロンの粒子が体に入ると体から出てこなくなります。ナノサイズの粒子は、ウィルスと同じくらいの大きさで、人体に対する何らかの影響もあると言われています。液体の中での反応であれば心配ありませんが、実際に操作する場合は換気のゆきとどいた環境で行なう必要があります。
小さい粒子の製造法のいくつかを紹介します。(※3種類の製法をご紹介いただきました。)一方で、実際には今までにもすでに小さい粒子というのは存在していますし、高校の教科書にも載っています。例えば、硝酸銀水溶液に塩化カリウム水溶液を加えると塩化銀の白色沈殿ができますが、この粒子はナノレベルの粒子の大きさなのです。技術の進歩によりナノレベルまで顕微鏡で見ることができるようになったということです。
最後にファミリーチップという小さなチップの中で薬品の生産を行なうシステムについて。通常薬品を生産する場合は、大きな反応釜で行なうが、生産量の細かな調整が難しい。一方、このファミリーチップを大量に備え付け、それぞれのチップで薬品の生産を行なうと、それぞれのチップ毎のオンオフで生産量を制御できるので生産量の調整が容易となります。これらの研究も化学システムの研究領域です。
以上、学科の説明から始まり、ナノサイズの粒子について専門的な難しい部分もありましたが、わかりやすくお話ししていただきました。就職についても詳しくおしえていただき、進路を考える上でも実り多い時間を持つことができました。
◎生徒の感想
◆講座の内容でもっとも印象に残ったこと
・数学や物理も必要。高校の化学は簡単だと思った。
・ファンデーションのこと。「そう言うことだったんだ」と思ってすごくしっくりきました。
・人間と他の生き物のサイズによる構造の違いについて。蟻の場合は人間が普通に使っている水の粘着性が12万倍になる。
・5ミクロン以下の物質は人体に入ったまま出てこないということ。
・粒子が何個あるかで、違う色の光を吸収反射したりするということ。
・作り方一つで形が変わってしまうこと。
・人間をそのままウルトラマンと同じスケールにするとか。蟻からしたら水はかなり粘っこいとか。スケールの話が印象に残った。
・学部内の話。
・物をつくるとき、大きな容器でつくればいいというものではない。
・何でもナノサイズにすると、僕の知っている世界と違う性質をだすということ。
・同じ物質でも構造が違うと見た目の色が変化するということ。
・違う大きさの世界に行くと、僕らの大きさの世界とは全く別の材料・システムじゃないといけないというのが面白いと思いました。
・食塩が作り方によって結晶の形が全然ちがうものになるということ。
・形や大きさを作り方で変え、性質も変わるところが不思議で面白かった。
・ファンデーションをつくる話。
・モルフォチョウの羽の色がナノに関係があるということ。
・研究室の紹介
・ファミリーチップにロマンを感じました。
・就職先の話。
・ナノの小ささ
・内外の粒子の割合によって粒子の性質が変わるということ。
・日焼け止め
・研究するにはまわりの環境についても考えなくてはいけない。
◆全体の感想
・興味のある内容でよかったです。
・受講してよかったです。難しいところもあったけど、興味が持てた。
もっとかわればもっと面白いと思う。
・少し難しかった。
・難しい内容ですし、スクリーンの中の文字は全くわからないものも多くありましたが、説明はとてもわかりやすく、面白かったです。ナノや粒子など小さい世界が好きなので、とても興味が持てました。
・いろんなことが知れてよかった。また参加したい。
・大学に行ったときの体験授業が粉体で、やってみてすごく楽しくて、理工学部、化学システムとかの前に、粉体に興味を持っていたので、とても楽しかったです。
・以前のオープンキャンバスから化学系の学科には興味がありました。今回の講座は難しくて十分に理解できませんでしたが、化学系に一層興味が持てました。
・化学系はいろんなところに就職できてすごいなと思った。
・話が難しすぎましたー。
・化学はいろいろな謎を解明したりできて面白いなあと思いました。
・大学での勉強は難しそうだけど、とても興味深くて、この講座によって
とても化学系へいきたいという思いが強まりました。
・難しい内容でしたが、興味深いところもあって濃い時間になった。
・身近なことから話してくれて、理解しやすかった。
・大学の1日体験のときのことをさらに深く知ることができてよかった。
・やかり化学システムは物理的な要素が強いのだなと改めてわかった。100分という時間は少々長く感じた。進路の参考になった。
・機能分子と違って化学システムは物理をやったりするし、高校の化学の延長と違うことをするので大変そうだ。
・今まで大きい方は無理でも小さい方なら、そのまま小さくしたらエネルギーは通用すると思っていたけど、小さいものは小さいもので、それに適応するようにできているのだと勉強になった。
・難しくて理解できないところもあったが理解できるところは楽しく聴けた。
・難しかったけど、興味が沸いたのでとても参考になりました。
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